—— PEPPERLANDの2026年機関誌に寄稿した文章を掲載しています —–
2025年7月の酷暑の中、大阪方面からは三田を超えてもう少し、少し過ぎると水の良い宍粟というエリアがあって、その手前の加西という町にある「void」というギャラリーで、uneの創作楽器展、並びにゲストを招いてのトークショーが開催された。
この辺りは一時は頻繁に通っていた三瓶山の温泉群へ至る道中、もしくは湯郷・真庭への道中として記憶にあった街だ。
妙な所在と営業時間に興味があった、それにて中々辿り着けなかったレコードショップ tobira recordsがあるビルにて、同ビルのギャラリーvoidにて行われた友人ミナミリョウヘイの展示を見に行ったのがきっかけとなり、1か月に渡って創作楽器の展覧会を開催することになった。その展覧会の企画として、かねてより話を伺いたかったお二人をトークショーという形にて招待したのだが、まずはそのゲストの紹介をしておこう。
藤枝守氏 「孤高の響き」という、ラモンテ〜ライリー〜オリヴェロスあたりの仕事と人生にフォーカスした個人的にストライクな著作をリリースしたばかりのタイミングで、または植物電位プラントロンや高橋悠治との共作「電脳カフェ」などのemレコードよりのリイシューでも知られる作曲家・日本にサウンドアートという言葉や文脈を伝えた方でもあり、このvoidに展示された楽器群にも大きなインスピレーションを与えた「響きの考古学」という純正調をめぐる本の著者。
そして、pepperlandの代表、能勢伊勢雄氏 人物については勿論ここを読む皆さま承知と思われるし、この機関紙に執筆できるのが光栄で氏から依頼をうけて早速記している最中なのだが、この日は「純正調=とは=音という物理現象によって表される自然摂理の一つの形(カタ)」という読み方にて、霊的な考察を与えていただけるだろうとの思いでご登壇いただいた。タオイズムから兆形、紋様、サイマティクス、倍音、などなど、自然の骨格として現れる音形というものや響きについての洞察、そこに事象や物象を読むことなどを、その豊富な引き出しと的確な言葉であらわにしてくれました。
どのようなトークショーとなったのかコンテンツをおさらいしておくと、少し前に京都で開催されたテリーライリーとバシェのコンサートの話から始まり、科学や政治、西洋音楽と平均律とグローバル化、オラクルからニューエイジ辺りのUS西海岸の動向、などさまざまな点をなぞる様に話が移り変わる一部、
休憩を挟んで、第二部は場もあたたまりより深いところへ 兆形、梅花心易、アニミズム、道教、赤の書、ベイリー、ケージ、インプロヴィゼーション、図形楽譜、”spectra ex machina”、米露の聖戦、音によるしるしを読み解いていくような流れから観客の質疑応答を挟んで大きなマップに着地した第二部。
前半後半とほぼ5時間にわたって行われたイベントになりました。ご来場いただいた方、長丁場のご集中ありがとうございました。
このトークショー&展覧会で何を表したかったかというと、まず音楽というものをアカデミックな方向に舵取りし意識を向けていきたいという前時代的なことでは全くなくて、いうならばその、アカデミズムも包括する”西洋化”が行き詰まり一つの大きな時代の終着点が見え始めた昨今において、「音は先がけて未来を表象する」という考えのもと、音の原理や振動、知覚としての「音」の現象という根本にもう一度立ち返り、そこで思考・行動することで何が見えてくるのか?というようなフォーカスを持って、HOLOTONEをはじめとする一連の音律をテーマにした楽器制作を行ったのだと思う。
きっかけとしては、2023年頃にテーマパーク施設から大型の楽器遊具制作の依頼があり、その構想段階としてパーチやラモンテの仕事のリサーチに深く入ろうとしていた時期に前述の「響きの考古学」という本に出会い、そこで述べられていた内容に啓示レベルで目が覚める思いがあった。実験的と言われている作品の構造や行為、奇想的な創作楽器などに興味があった当時の自分、例えばエレン・フルマンのロングストリングインストルメントやアルヴィン・ルシエの様々な方法論など、コンセプチャルなアートと実験主義、音楽がクロスする様な位置(能勢さんのフィルターを通せばフルクサスの影響下という事になると思う)に視点を置いて、antibodies collectiveを中心に舞台装置、音具制作というものを発展させていた自分にとって、「響きの考古学」が明らかにしたことは、一番身近にあって表現しやすく全てに通づる音という”現象メディア”の基礎にフォーカスして見つめ直す様な行為であったし、レコードを探しては好んで聞いていたドローン、ミニマリズム周辺の、現行の実験・先鋭音楽の祖となっているようなさまざまな実験音楽作品、もしくはパーチから派生したような自作楽器、やその周辺のzine(experimental musical instrumentsやMusicworksなど)に登場するさまざまな奇想のベースに「純正律=ジャストイントネーション」というテーマが横たわっている、という事の発見であった。音律をも自作していくということ。そこで顕になる世界中の様々な失われた訛り音と、平均律という尺度基準への問い直し。
まずはと制作したメタロフォン。アメリカンガムランをインスピレーションに、ルーハリソンの純正律の方法を学び考案した音階を用いた楽器 [circle gamelan]: ( 志摩グリーンアドベンチャーに2023年に設置)において、ドレミからずれた、整数比による単純なアルゴリズムで求められる自然倍音律を用いた楽器を制作した所、それが”とても”よく響いてしまう、身体の内側まで骨と空洞を共鳴させながら明らかに響いてしまうという事を身を持って感じたのがきっかけで、片や平均律を見返し比較すれば、音の響き方や共鳴において普段使用して曲というものを構成しているハーモニーというのは、ピントを捉えられず痩せ細り減衰していくが如く、驚くほど音に内在する力を失っていることに気づいてしまった。。
次第に平均律の姿というのは・・・いわゆるグローバリゼーション化において様々な状況で利便性の罠と共に時代感覚を閉塞させているようなor平均化していくシステムと同意、これは能勢さんの洞察をお借りすればサルトルの「実践惰性態」という事なのだろうが、この状況に対して自然倍音の摂理をもって活々とした状況を解放する鍵となればと、holotoneに表される一連の音律をテーマにした楽器制作を開始し〜展示〜トークショーまでを行わせていただきました。
結果として世界は平均律が生まれてからこの200年ほどの曲を忘れても良いから現状のドレミがスタンダードとなっている状況をいま一度客観視し、ジャストイントネーションをはじめとする音律の冒険をいますぐ始めるべきだし、ピアノを基準とすることで失われた世界各地のさまざまな民族的な響き=微分的なイントネーション=訛りを含む音たちを再び取り戻すべきだ。というのは今でも絶対的に強い思いとして残っています。これはつまり西洋的”平均化”のもたらす解像度は音楽以外にも教育や政治など「全て」の局面において現在の時代の動向に遅れており、イコーライゼーションを基礎にしたベクトルでの未来というのは今後あり得ないという事なのだろうと考えています。
音についてもう少し掘り下げると、例えばこの響きの問題に、実際どのような事実があるかという事を簡潔にまとめましょう。まず一本の弦をピンと張り、それをドとします。その長さを2/3にすると、5度の音”ソ”が取り出せます。そのまた2/3、2/3と進めると、完全な共鳴を起こす5度音階が次々と物理的に取り出され、これはピタゴラス音階や中国の三分損益法など古くに音階成立の基礎となった方法に繋がるのですが、そこには絶対的に埋められない問題があり、その音階がオクターブに周期する際にわずかなズレ、23.46セントずつ少しずつオクターブ上の音が高くはみ出してしまうのです。
このオクターブ周期のずれ=ピタゴラス・コンマと呼ばれるものを含む音階の立体的な推移を平面図として見てみると、円で閉じることのない螺旋形として表されます。
この自然音階で表される螺旋形は貝の渦巻きやdnaをはじめとするこの現象界のコスモロジーを表象するような、宇宙は円で閉じず螺旋で運行するという、そんなフラクタルな一つのカタ・比喩として考えることも出来ると思います。ターシャル・オルガナムなどで述べられているようにこの閉じることない無限螺旋の本来のフォルムは私たちの知覚次元では捉えられない何か未知の稜線を観察している様なものなのだと思います。
その螺旋を複数オクターブが必要な鍵盤楽器=ピアノのために、妥協して円環として閉じた音階を採用したのが、、今のこの200年ほど前から徐々に浸透していき世界標準となった平均律という音律です。円環で閉じることによって、円周率でお馴染みの割り切れない数字がそこには現れています。
自然倍音のスケールで螺旋状の閉じない軌道に配置された音階は、円環の平均律で作曲された現代の曲の再現をするのは難しいですが、その一点のデメリットを置いといて余るほどの、本来の音が持つ響き、音と音が共鳴するということはどういう事かを感じることができる力を持っています。
6時間に渡るラモンテヤングのwell tuned pianoの”無限に連なる音の流れ”に対する現代の音楽の持つ”音の不定位がもたらす運動の暴力性”。もこの辺りをよく見つめれば理解できる事であると思います。
いうならば再び「本来の骨格」の位置に戻された音律、これを採用して制作した楽器から発される音の響きを身をもって体験した際に、自身の中に上記のような直感的な理解が生まれた。これをきっかけとして、このジャストイントネーションというものの重要性を世に広く伝えねばという考えのもと、ひとまずここまで辿り着きました。
実際にトークショーを聞かれた方や、今後動画をみて興味を持たれた方は、ぜひご自身で調べてこの自然倍音列の響きを実践してみることをお勧めします。
フレットのある楽器では難しいですが、バイオリンや琴などフレットレスの楽器は簡単なノウハウとチューナーがあれば試せます。もしくはパソコン上でもscala(https://www.huygens-fokker.org/scala/) というフォーマットを用いればdtm上でさまざまな実験は可能ですし、声、特に複数人でのラーガの様なセッションは一番早く試せるフォーマットだと思います。宣伝になってしまいますがuneの楽器HOLOTONEはその為、この自然倍音列の響きを鳴らす為に制作しています。どのように始めるかというのが一番のハードルと思いますので、最初に行える簡単な方法だけ伝えておきましょう。
まず、1/1を基準音とします。現在はA、ラの音=440hzを基準としていますが、素数を用いて分数計算を行う純正律の考え方では2と3で割り切れる432hzという数字を基準音とすると、弾き出される数字が小数点のない、キリの良いものになるのでお勧めしています。雅楽などは430hzを基準にしていますし、基準音の移動というのは自由に考えて良いかと。
サイマティクスやクラドニを見れば明らかですが、共鳴体の容積が変化すれば共鳴する音高も変わります。528hz 396hzなど特定の周波数が意味を持つというのはある種の物語で、効果を謳うものはホメオパシーです。この辺りはhealing codes for the biological apocalypseという90年代に書かれた一冊の書籍がルーツになっていて、中々なので、気になる方はそちらをご覧ください。特定の周波数など無くても音は古来からそもそも感情や情報伝達、宇宙や精霊と交信する為のツールでもありました。
純正律とは、音高の決定に整数比(3/2,4/3,5/4など・・)による数字を用いたアプローチです。平均律というのは、1オクターブ1200hzを綺麗なマス目の如く12に均等比したものです。100,200,300,400,,,1200という位置に音が並んでいるという事です。
ここでまず最初に試すべき、基本となる純正律の整数比によるピアノの白鍵に当たる音階を記していきますと、
1(ルート)、9/8、5/4、4/3、3/2、5/3、7/4、2/1(オクターブ)
まずは基音を1として、それに対するこの8音の周波数を分数計算を行って求め、チューナーを用い楽器に適応してみる所から始めてみてはいかがでしょうか。前述のように基音を432にすれば計算が容易です。
もし可能性を感じることが出来たなら、そのあとは藤枝守の「響きの考古学」、マックス・ウェーバーの「音楽社会学」、ハリーパーチの「Genesis of a music」、ルー・ハリソンの「Music primer」などの著作たちがそれぞれの探究の扉となると思います。
長い話となりましたが、まずは、、7/13日のトークショーで大抵の事は話しているので、2025.07.13 <純正調による響きの始原・響きの未来>トークショー @void guest: 藤枝守 能勢伊勢雄:聞き手 関口大和 / PART1 https://youtu.be/ay_v4ewoM8o / PART2 https://youtu.be/nlbdffpwC1k こちらトークショータイトルを検索の上、是非ご覧になってみてください。